難治性てんかん治療「エピディオレックス®」CBDを利用した医薬品

CBD

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日本でも昨年の9月にCBD(カンナビジオール)医薬品承認に関する要望書を、日本てんかん協会、ドラベ症候群患者家族会、日本小児神経学会、日本てんかん学会と連名で厚生労働大臣宛てに提出したというニュースがありました。

今回はこのニュースの中心となるCBDの医薬品である「エピディオレックス(Epidiolex ®)」についてご紹介いたします!

CBD(カンナビジオール)とは

CBD(カンナビジオール、英:Cannabidiol)とは、植物の大麻で生成されるカンナビノイドと呼ばれる成分の一つです。大麻由来の成分と聞くと「麻薬」を連想されるかもしれませんが、CBDは
「陶酔」や「ハイになる」といった症状を引き起こさない成分です。また、WHO(世界保健機関)でも安全性と一定の効果、効能があることが報告されています。

医療、美容、健康といった幅広い分野での効果が期待されており、アメリカ・ヨーロッパを中心に効果を利用した数多くのCBD製品が販売されています。

CBDの効果とは

CBDの人への効果や効能、どのように身体に作用するのかについては、世界各国でさまざまな研究や臨床試験が、現在も行われています。

CBDの効果は医療、美容、健康と幅広く、また、植物由来であることから、副作用が少ないことも注目される理由です。

下記はCBDの効果、効能として期待されている一部と関連する疾患になります。

  • 抗不安
    全般性不安障害(GAD)、社会不安障害(SAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など
  • 抗菌
  • 抗酸化作用
  • 抗炎症作用
    多発性硬化症、関節リウマチ、大腸炎、肝炎など 
  • 骨組成の促進
  • 発作とけいれん
    ドラべ症候群、レノックスガストー症候群などの難治性てんかん
  • 血糖値の低下
  • 食欲抑制
    肥満など
  • 免疫抑制
    関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、クローン病、潰瘍性大腸炎など
  • 神経保護作用
    アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など
  • がんの成長を阻害する
  • 疼痛緩和
    関節炎、多発性硬化症、片頭痛など
  • 血管弛緩作用
  • 悪心、嘔吐の減少
    がんの化学治療やエイズ治療の副作用の緩和
  • 皮膚病
    乾癬、アトピー性皮膚炎、ニキビなど

これらの効果効能は、抗けいれん(てんかん)のように実際に研究により実証されているものもあります。しかし、その多くが海外の初期段階での研究、使用者や患者が実際の体験談的に報告される事例証拠であり、あくまでもCBDの効果としての可能性を示唆され、期待されているものです。

大麻自体がアメリカや各国も最近になって合法化されたこともあり、研究がまだまだ行われているところです。

CBDがてんかん治療に効果がある??

医療用大麻、CBDがてんかん治療に効果があることは以前からよく知られており、CBDの効果の中で唯一、臨床試験により実証されている効果です。

CBDがてんかんにどう効くのか?(作用機序)

作用機序とは薬や成分がどのように人の身体に作用し効果を発現するのかということですが、CBDがてんかんにどのように作用するのかについては複数の候補はあるものの、完全には解明されておらず、研究段階です。

作用機序がわからないのに使用しても大丈夫?と普通は思いますが、例をだすと、手術された経験ある方なら驚くかもしれませんが「全身麻酔」(吸入麻酔薬)に関しても作用機序は未だに完全には特定されていません。

作用機序がわかっていないからといって、ただ単なる机上の理論や、研究施設での結果だけで判断されたわけではなく、人を対象とした大規模な臨床試験が行われ、その後に医薬品などとして認可がおりるということです。

作用機序は解明されてはいませんが、CBDに関しては臨床試験においてドラべ症候群やLGSといった難治性てんかんに効果があることが実証されており、これにより「エピディオレックス(Epidiolex ®)」が医薬品として認可され、患者に処方されています。

エピディオレックス(Epidiolex ®)とは

エピディオレックス(Epidiolex ®)とは、イギリスのバイオ医薬品企業である、GWファーマシューティカルズ (GW Pharmaceuticals)が開発した、大麻由来の成分であるCBD(カンナビジオール)を利用したてんかん治療薬です。

この治療薬は主に日本でも指定難病である、レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut syndrome)とドラベ症候群(Dravet syndrome)の患者に処方されます。

エピディオレックスは米国や韓国をはじめとしたアジア諸国等では既に承認されており、オーストラリアでは治験実施中、EUでは欧州医薬品庁(EMA)の承認待ちとなっている新薬です。

GWファーマシューティカルズ 社(GW Pharmaceuticals)

GW社はエピディオレックスを開発した会社であり、1998年に設立された、イギリスのバイオ医薬品企業です。

GW社はこの「エピディオレックス®」以外にも、多発性硬化症の治療薬として、「サティベックス®」と呼ばれる別の大麻由来の治療薬を開発しています。

これは大麻由来の医薬品としては世界で初めて承認されたものであり、その年、イギリス内務省と医薬品・医療製品規制庁 (MHRA) から、医療大麻の科学的研究を実施するための大麻を栽培できる許可を得ています。

エピディオレックス(CBD)を使った臨床試験

このアメリカで行われた臨床試験は2018年5月「the New England Journal of Medicine」にて発表されたものです。 ※こちらが原文のリンクになります。 下記が行われた臨床試験の概要です。

二重盲検ランダム化比較試験を用いて行われた臨床試験は、アメリカの30の臨床センターで実施され、「2歳~55歳までの年齢範囲、28日間に週2回以上の発作を起こしたLGS患者」を対象に行われました。

225人が参加し、エピディオレックス(CBD)の投与量によって無作為に3つに分けられました。臨床試験は14週間にわたって行われ、被験者へは1日2回CBDが投与されました。

投与量によって分けられたグループ

  1. 体重1kgあたりCBD20mgのグループ 76人
  2. 体重1kgあたりCBD10mgのグループ 73人
  3. プラセボ(CBDなし)のグループ 76人

研究者は、上記の条件においてベースラインとして設定されている28日間の期間内の発作の変化の割合を測定しましました。28日間の期間中発作の回数が減ったの患者の数は3つのグループすべてを合わせて85人という結果となりました。下記がその割合となっています。

発作回数が減少した被験者数のグループ毎の割合

  1. CBD20mgグループで41.9%の減少
  2. CBD10mgグループで37.2%の減少
  3. プラセボ(CBDなし)グループで17.2%の減少

実験の中で、1のCBD20mgのグループで6名、2のCBD10mgのグループで1名の被験者が副作用により、臨床研究を中止しました。CBD(カンナビジオール)を服用している人々の最も一般的な副作用は、眠気、食欲減退、下痢であり、これらは高用量のCBDを服用することにより頻繁に起こると報告されています。

この臨床試験の研究の結論として、「LSGの小児および成人では、従来の抗てんかん薬治療に加えて1日あたり、患者の体重1kgあたり10 mgまたは20 mgのCBD(カンナビジオール)を追加すると、プラセボよりも発作の頻度が大幅に減少しました」と発表されました。

エピディオレックス®の治療効果が期待できる難治性てんかん

エピディオレックス®の治療対象となっている2つの難治性てんかんについて紹介します。

レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut syndrome、LGS)

LGSはアメリカ人神経学者ウィリアム・G・レノックス(Lennox)とフランス人神経学者ヘンリー・ガストー(Gastaut)により特徴がまとめられ、その学者の名前に由来するてんかんの一種です。

日本でも指定難病144に指定されている難治性のてんかんで、幼児期から小児期、特に2歳から6歳の間に発症する。多彩なてんかん発作が頻繁に起きるのが典型的な例であり、脳波検査も独特の異常な波が出現し、中等度から重度の知的障害もほぼ全例に出現する疾患とされています。LGSの患者は、10万人あたり20-30人程度はいるだろうと考えられています。

※CBDとLGSについて詳しくはこちらの記事を合わせてお読みください。

ドラべ症候群(Dravet syndrome)

フランス人の小児精神科医であり、てんかん専門医である、シャルロッテ・ドラべによって提唱されたてんかんの一種です。

ドラベ症候群は乳児重症ミオクロニーてんかん (SMEI)とも呼ばれる 乳幼児期に発症する難治性てんかんです。それまで健康であった赤ちゃんが、多くの場合は1歳までに全身あるいは半身のけいれんで発症し、その後も発作を繰り返し、けいれん重積発作(てんかんの発作が10分以上つづくこと)となる事も度々あります。

体温の上昇や光、ある種の模様などによって発作が誘発されることもあり、特に入浴中や入浴後、38℃台の発熱により発作を繰り返す場合はドラベ症候群が疑われます。ドラベ症候群では、間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作など個々人や年齢により様々なタイプの発作が起こります。

※CBDとドラベ症候群についてはこちらの記事を合わせてお読みください。

最新情報:エピディオレックスが規制物質法から除外

2020年4月6日、 エピディオレックス(Epidiolex®) がアメリカ国内における、禁止薬物や麻薬を取り締まる法律である「規制物質法」のスケジュールⅤから除外されました。

この決定は、今まで規制物質法による処方や流通上の規制が無くなり、治療対象となっている難治性てんかんの患者は今後、エピディオレックスへのアクセス、入手が以前より容易になるということです。

日本でエピディオレックスが使用可能になる日がまた一歩近づいたのかもしれません。

※アメリカのエピディオレックス規制物質法除外の関連記事はこちらをご覧ください。

なぜてんかん治療にCBDや医療大麻を選ぶ必要があるのか?

なぜ抗てんかん薬があるのに、わざわざ大麻の成分を治療に使用するのか?そこには難病特有の問題があります。

ドラべ症候群やLGSのように従来の治療が発作の抑制に効果がないてんかん患者が約30%いると言われています。これらの患者にとって、臨床研究の結果により効果が実証され、認可が下りたCBDやCBDオイルを選択肢の一つとして検討することは何ら不合理ではありません。

ただし、これらはてんかん専門医などの専門的な治療施設で行うことが可能なすべての治療法が行われた後で考慮する必要があります。また治療の中心にCBDを置くのではなく、あくまで継続して行っている治療に加えるオプションとして検討するということが必要です。

大麻成分を含む小児てんかん薬についてのニュースの意味

日本国内では、1948年に制定された大麻取締法により、大麻成分を含む医薬品の使用は認められておらず、当然臨床試験もできません。このような状況を踏まえ、2019年9月にCBD(カンナビジオール)医薬品承認に関する要望書を、日本てんかん協会、ドラベ症候群患者家族会、日本小児神経学会、日本てんかん学会の4団体が連名で厚生労働大臣宛てに提出したというものです。これは大麻成分を含む医薬品の国内でも使用できるよう、治験に関する法整備の見直しと早期承認を求めたものです。

実際には2020年には小児てんかん薬の治験が始まるという情報もあるので、日本でも認可が下りる日も近づいてきているのかもしれません。

医療における問題は、医療や法律といった枠の問題ではなく、治療を受ける人の生きる権利、人権の問題であると、医療大麻に関する医者が言っていたのが非常に印象に残っています。なんにせよ、助かる命があるのであれば助けるべきであり、助かるべきだと思います。

少しでも、様々な疾患で苦しむ患者さんが、多くの選択肢の中で治療できることを望みます。

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