CBD又は医療大麻がてんかんへの治療効果があることは、研究結果や事例証拠から世界的にも知られている事実です。日本でも2019年9月にCBD(カンナビジオール)医薬品承認に関する要望書を、日本てんかん協会、ドラベ症候群患者家族会、日本小児神経学会、日本てんかん学会の4団体が連名で厚生労働大臣宛てに提出したというニュースがありました。
今回はこのニュースに関連し「CBDとドラべ症候群」についてご紹介します。
CBD(カンナビジオール)とは
CBD(カンナビジオール、英:Cannabidiol)とは、植物の大麻で生成されるカンナビノイドと呼ばれる成分の一つです。大麻由来の成分と聞くと「麻薬」を連想されるかもしれませんが、CBDは
「陶酔」や「ハイになる」といった症状を引き起こさない成分です。また、WHO(世界保健機関)でも安全性と一定の効果、効能があることが報告されています。
医療、美容、健康といった幅広い分野での効果が期待されており、アメリカ・ヨーロッパを中心に効果を利用した数多くのCBD製品が販売されています。
CBDの効果とは
CBDの人への効果や効能、どのように身体に作用するのかについては、世界各国でさまざまな研究や臨床試験が、現在も行われています。
CBDの効果は医療、美容、健康と幅広く、また、植物由来であることから、副作用が少ないことも注目される理由です。
下記はCBDの効果、効能として期待されている一部と関連する疾患になります。
- 抗不安
全般性不安障害(GAD)、社会不安障害(SAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など - 抗菌
- 抗酸化作用
- 抗炎症作用
多発性硬化症、関節リウマチ、大腸炎、肝炎など - 骨組成の促進
- 発作とけいれん
ドラべ症候群、レノックスガストー症候群などの難治性てんかん - 血糖値の低下
- 食欲抑制
肥満など - 免疫抑制
関節リウマチ、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、クローン病、潰瘍性大腸炎など - 神経保護作用
アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など - がんの成長を阻害する
- 疼痛緩和
関節炎、多発性硬化症、片頭痛など - 血管弛緩作用
- 悪心、嘔吐の減少
がんの化学治療やエイズ治療の副作用の緩和 - 皮膚病
乾癬、アトピー性皮膚炎、ニキビなど
これらの効果効能は、抗けいれん(てんかん)のように実際に研究により実証されているものもあります。しかし、その多くが海外の初期段階での研究、使用者や患者が実際の体験談的に報告される事例証拠であり、あくまでもCBDの効果としての可能性を示唆され、期待されているものです。
大麻自体がアメリカや各国も最近になって合法化されたこともあり、研究がまだまだ行われているところです。
ドラべ症候群(Dravet syndrome)
フランス人の小児精神科医であり、てんかん専門医である、シャルロッテ・ドラべによって提唱されたてんかんの一種です。
ドラベ症候群は日本では指定難病であり、乳児重症ミオクロニーてんかん (SMEI)とも呼ばれる乳幼児期に発症する難治性てんかんです。
それまで健康であった赤ちゃんが、多くの場合は1歳までに全身あるいは半身のけいれんで発症し、その後も発作を繰り返し、けいれん重積発作(てんかんの発作が10分以上つづくこと)となる事も度々あります。体温の上昇や光、ある種の模様などによって発作が誘発されることもあり、特に入浴中や入浴後、38℃台の発熱により発作を繰り返す場合はドラベ症候群が疑われます。
ドラベ症候群では、間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作など個々人や年齢により様々なタイプの発作が起こります。
ドラべ症候群の原因
神経細胞など細胞同士の情報伝達に関与するナトリウムチャネルの遺伝子(SCN1A)異常が原因といわれています。患者は2~4万人に1人の稀な難病であり、ドラベ症候群の80%の人に遺伝子異常が見られますが、遺伝子異常がなくても症状から診断されることもあります。
日本でも非常に稀な病気であるために、診断できる病院が限られており、てんかん専門医を受診する必要があります。
ドラべ症候群の治療法
その他の難治性てんかんと同じく、ドラべ症候群も発作の種類が多岐にわたるため、抗てんかん薬を多数服用することが一般的な治療法となっています。しかし、その薬が実際には有効でなく、副作用を起こす可能性があることも問題となっています。
ケトン食や修正アトキンス食と言われる低糖質、高脂質食が有効な場合があるとされていますが、脳外科手術は一般的には効果がないと考えられています。
CBDがドラべ症候群に効果ある??
アメリカではドラべ症候群またはLGSの治療に「エピディオレックス(Epidiolex ®)」と言われる医薬品が認可され処方されています。これは大麻由来のCBDを使って作られた製品であり、臨床試験により、てんかんへの一定の効果が実証されています。
エピディオレックス(Epidiolex ®)とは
エピディオレックス(Epidiolex ®)とは、イギリスのバイオ医薬品企業である、GWファーマシューティカルズ (GW Pharmaceuticals)が開発した、大麻由来の成分であるCBD(カンナビジオール)を利用したてんかん治療薬です。
この治療薬は主に日本でも指定難病である、レノックス・ガストー症候群(Lennox-Gastaut syndrome)とドラベ症候群(Dravet syndrome)の患者に処方されます。
エピディオレックスは米国や韓国をはじめとしたアジア諸国等では既に承認されており、オーストラリアでは治験実施中、EUでは欧州医薬品庁(EMA)の承認待ちとなっている新薬です。
CBDがてんかん、ドラべ症候群にどう効くのか?(作用機序)
作用機序とは薬や成分がどのように人の身体に作用し効果を発現するのかということですが、CBDがてんかんにどのように作用するのかについては複数の候補はあるものの、完全には解明されておらず、研究段階です。
作用機序がわからないのに使用しても大丈夫?と普通は思いますが、例をだすと、手術された経験ある方なら驚くかもしれませんが「全身麻酔」(吸入麻酔薬)に関しても作用機序は未だに完全には特定されていません。
作用機序がわかっていないからといって、ただ単なる机上の理論や、研究施設での結果だけで判断されたわけではなく、人を対象とした大規模な臨床試験が行われ、その後に医薬品などとして認可がおりるということです。
作用機序は解明されてはいませんが、CBDに関しては臨床試験においてドラべ症候群やLGSといった難治性てんかんに効果があることが実証されており、これにより「エピディオレックス(Epidiolex ®)」が医薬品として認可され、患者に処方されています。
エピディオレックス(CBD)を使った臨床試験
このアメリカで行われた臨床試験は2018年5月「the New England Journal of Medicine」にて発表されたものです。 ※こちらが原文のリンクになります。 下記が行われた臨床試験の概要です。
二重盲検ランダム化比較試験を用いて行われた臨床試験は、アメリカの30の臨床センターで実施され、「2歳~55歳までの年齢範囲、28日間に週2回以上の発作を起こしたLGS患者」を対象に行われました。
225人が参加し、エピディオレックス(CBD)の投与量によって無作為に3つに分けられました。臨床試験は14週間にわたって行われ、被験者へは1日2回CBDが投与されました。
投与量によって分けられたグループ
- 体重1kgあたりCBD20mgのグループ 76人
- 体重1kgあたりCBD10mgのグループ 73人
- プラセボ(CBDなし)のグループ 76人
研究者は、上記の条件においてベースラインとして設定されている28日間の期間内の発作の変化の割合を測定しましました。28日間の期間中発作の回数が減ったの患者の数は3つのグループすべてを合わせて85人という結果となりました。下記がその割合となっています。
発作回数が減少した被験者数のグループ毎の割合
- CBD20mgグループで41.9%の減少
- CBD10mgグループで37.2%の減少
- プラセボ(CBDなし)グループで17.2%の減少
実験の中で、1のCBD20mgのグループで6名、2のCBD10mgのグループで1名の被験者が副作用により、臨床研究を中止しました。CBD(カンナビジオール)を服用している人々の最も一般的な副作用は、眠気、食欲減退、下痢であり、これらは高用量のCBDを服用することにより頻繁に起こると報告されています。
この臨床試験の研究の結論としては、「LSGの小児および成人では、従来の抗てんかん薬治療に加えて1日あたり、患者の体重1kgあたり10 mgまたは20 mgのCBD(カンナビジオール)を追加すると、プラセボよりも発作の頻度が大幅に減少しました」と発表されました。
なぜてんかん治療にCBDや大麻を選ぶ必要があるのか?
なぜ抗てんかん薬があるのに、わざわざ大麻の成分を治療に使用するのか?そこには難病特有の問題があります。
ドラべ症候群やLGSのように従来の治療が発作の抑制に効果がないてんかん患者が約30%いると言われています。これらの患者にとって、臨床研究の結果により効果が実証され、認可が下りたCBDやCBDオイルを選択肢の一つとして検討することは何ら不合理ではありません。
ただし、これらはてんかん専門医などの専門的な治療施設で行うことが可能なすべての治療法が行われた後で考慮する必要があります。また治療の中心にCBDを置くのではなく、あくまで継続して行っている治療に加えるオプションとして検討するということが必要です。
大麻成分を含む小児てんかん薬についてのニュースの意味
日本国内では、1948年に制定された大麻取締法により、大麻成分を含む医薬品の使用は認められておらず、当然臨床試験もできません。このような状況を踏まえ、2019年9月にCBD(カンナビジオール)医薬品承認に関する要望書を、日本てんかん協会、ドラベ症候群患者家族会、日本小児神経学会、日本てんかん学会の4団体が連名で厚生労働大臣宛てに提出したというものです。
これは大麻成分を含む医薬品の国内でも使用できるよう、治験に関する法整備の見直しと早期承認を求めたものです。実際には2020年初頭にはイギリスにおいて、日本人に対しての小児てんかん薬の治験が始まるという情報もあるので、日本でも認可が下りる日も近づいてきているのかもしれません。
まとめ
今回はCBDとてんかんについてご紹介しました。てんかんへの治療効果はCBDの効果の中で唯一、実証されているものであり、安全性と効果については確認されているものです。中には難治性てんかんのように治療が難しく、他に治療オプションがないということもあります。その中でCBDやそのほかの治療方法を探すことに何ら不思議はありません。
日本の医薬品の発売などはかなり複雑なイメージがあり、患者の手元に届くまでにはどれぐらいかかるを考えると気が遠くなります。実際の効果や安全性から世界的にも現在は医療用大麻を中心に合法化の流れがあり、救える可能性のある患者、必要としている人たちがいるのであれば、一刻も早い議論が行われ、医療への大麻に対しての見直しも必要があるのではと思います。
この記事が少しでも正しい知識を得るお手伝いになれば幸いです。
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