アメリカの複数の州での大麻合法化をきっかけとした、大麻産業の急速な発展は「グリーンラッシュ」と呼ばれています。近年までの数十年の間「大麻」は世界的に禁止薬物として規制されていました。現在その大麻への評価が世界的に見直されており、医療的な用途での「医療大麻」を合法化する国も増えています。その効果効能は250種類以上の疾患に関連があると言われています。
医療にもちいられる大麻ですが、現在大麻が持つ効果効能の一因とされる「テルペン」に注目が集まっています。今回は「テルペン(Terpene)」についてご紹介します!
大麻に含まれるテルペン(Terpene)とは??
テルペンとは、科学的にはイソプレン(isoprene)という二重結合を2つ持つ炭化水素にを構成炭素とする炭化水素であり、分類によってはテルペン類のうち、カルボニル基やヒドロキシ基などの官能基を持つ誘導体はテルペノイド (terpenoid) と呼ばれます。
テルペンとテルペノイドは、植物や一部の昆虫によって生成され、多くの種類の植物や花のエッセンシャルオイルの主要成分です。
エッセンシャルオイルなどに含まれるテルペンには、抗菌作用、鎮静作用など様々な効果があるとされ、香水やアロマセラピーなどの伝統的な薬の香料として広く使用されています。また、天然ゴムや溶剤の原料としても利用されます。
大麻に含まれるテルペンに主にミルセン、リモネン、カリオフィレン、ピネンなどがあり、天然のテルペンとテルペノイドの合成バリエーションと誘導体は、香料で使用されるアロマ以外にも食品添加物としてフレーバーにも利用されています。
テルペンは独特の強い香りを持ち、草食動物や寄生虫、その他の捕食者から植物が自身を保護するためや、花粉を媒介する昆虫やその他の生物を誘引するためにも生成される言われています。
大麻におけるテルペンの役割
大麻には100種類以上ものテルペンが確認されており、それぞれが独自の薬効特性に基づいて、大麻に治療的価値を追加する場合があるとされています。
大麻のカンナビノイドであるTHCやCBDと相互作用することによって、カンナビノイドの薬効成分をより高いレベルで引き出す「アントラージュ効果」が注目されている。
大麻においては薬効を加える以外に、テルペンはその大麻の品種の個性を作るものであり、香りと風味の要因とされています。ある品種では柑橘系の香りがあり、またある品種では甘くフルーティーな香りがあります。
アントラージュ効果(Entourage effects)
アントラージュ効果とは大麻に含まれる、カンナビノイドやテルペンといった成分が相互作用し、より高いレベルでそれぞれの持つ効果を発揮するといったものです。
例としてはTHCの短期記憶障害作用をテルペンの一つであるピネンが防止したり、CBDと柑橘系の香りを持つテルペンであるリモネンは、不安を和らげるために一緒に働く可能性があります。
このようにTHCやCBDといったカンナビノイド成分を単体で分離したものでも効果は期待できますが、植物の大麻に含まれるそのほかの成分を分離・除去することなく一緒に摂取することで、THCやCBDといったカンナビノイドやテルペンの持つ作用を合わせて利用することが重要という考えです。
このアントラージュ効果の理論は、大麻やカンナビノイドを長年研究してきた神経科学者及び薬理学者であるイーサン・ルッソ博士により提唱されており「Taming THC: potential cannabis synergy and phytocannabinoid-terpenoid entourage effects」と呼ばれるレビューで詳細に説明されています。
※イーサン・ルッソ博士の論文はこちら(英文です)
テルペンの種類と期待される効果
ハーブなどのテルペンはアロマテラピーなどにも用いられ、さまざまな治療や症状の緩和にも利用されます。下記に大麻に含まれる一部のテルペンとその期待される効果についてまとめました。
ミルセン(Myrcene)
ミルセンはミルキア属 (Myrcia)の植物に含まれていることからミルセンという名前の由来になっています。大麻の他には主にマンゴーやレモングラス、タイム、ローリエ、ホップなどに含まれています。
ミルセンは香料工業において広く利用され、こころよい芳香を持つため、ミルセンそのものが添加されることもありますが、メントール、シトラール、ネロール、リナロールを合成する際の原料としても使われます。
ミルセンは大麻において平均して一番含有率が多いテルペンであり、大麻に含有するテルペンの内20%程度がミルセンとります。
ミルセンに期待されている効果は鎮静やリラックスといったものです。
- 抗酸化
- 筋弛緩
- 不眠症
- 抗炎症
これらの効果を決定づける臨床試験などは行われていません。しかし、ミルセンを含む漢方薬は、民間薬の睡眠補助剤として使用されている長い歴史があります。また、メキシコではミルセンが豊富なレモングラスを抽出されたお茶は、鎮静および筋肉弛緩剤として利用されてきました。ドイツでは睡眠補助剤としてミルセンに富んだホップを使ったものを使用することは一般的です。
リモネン(Limonene)
リモネン(limonene)の語源はレモンから由来しています。大麻の他には主にオレンジ、グレープフルーツ、レモン、などの柑橘系の皮やに含まれており、オレンジの皮に含まれている橙皮油の95%がリモネンによって組成されています。
リモネンはさまざまな効果効能への期待と柑橘系の香りを有していることから、食品はもちろん、アロマセラピーにも取り入れられます。他にも界面活性剤として洗剤の汚れ落としとして利用されたり、医薬品成分が肌に浸透するのをサポートする働きがあるため、ボディクリームや軟膏などの医薬品にも使われることがあります。
リモネンに、期待されている効果はストレス緩和などです。
- 抗炎症
- 抑うつ
- ストレス緩和
- 抜け毛防止
- 抗不安
- ガンを予防および抑制する効果
リモネンは大麻に2%程度含有されています。ミルセンと同じくこれらもあくまで期待される効果であり、実証されているものではありません。動物実験や初期の研究での可能性が示唆されたものになります。今後さらなる大麻とリモネンに関する研究が必要です。
カリフィオレン(β-Caryophyllene)
カリオフィレン(β-Caryophyllene)は、大麻以外の他の植物では、黒コショウ、シナモン、ローズマリー、ホップ等に含まれています。黒コショウやシナモンにおいて感じられるようなスパイスの香りが特徴です。
アメリカではカリオフィレンはFDA(食品医薬品局)が定める安全基準に合格したものに与えられる「GRAS」のステータスがあり、FDAによって承認されている食品の一般的な成分で、最初の「食用カンナビノイド」です。また、空港などの探知犬が大麻を特定する原因となる成分です。
カリオフィレンに期待される作用は下記です。
- 骨の形成
- 抗炎症
- 抗不安
- 抗慢性痛
- 抗菌
カリオフィレンのユニークな分子構造により、カンナビノイド受容体である特にCB2と親和性があり、直接活性化する能力があります。これは、大麻のTHCによる陶酔感を引き起こさず、炎症の軽減など、これらの受容体の活性化に関連する多くの利点を提供することを意味します。
これらは他のテルペンとカリオフィレンが異なるところであり、カリオフィレンはカンナビノイドに近い働きをします。
ピネン(Pinene)
ピネンはマツ (pine) に由来し、その名の通り松脂や松精油の主成分です。大麻や松以外では、ローズマリー、バジル、パセリや多くの針葉樹林などにも含まれ、特有の香りのもととなります。
松の木や森の香りといった香料や医薬品の原料となります。
下記がピネンに期待されている効果です。
- 抗炎症
- 気管支拡張
- 抗不安
- THCがもたらす短期記憶障害の軽減
リナロール(Linalool)
リナロールの名称は「リナロエ」が由来であり、大麻の他には、ラベンダー、ローズウッド、ベルガモット、クラリセージ、ネロリ等に含まれます。ラベンダーやベルガモット等の代わりを作るものであり、人気が高く、多くが香料として使われている。
リナロールを含む、モノテルペンアルコール類は、比較的毒性が低く、肌にも優しいので、この成分を多く含むオイルはお年寄りや乳幼児でも使いやすいとされています。
下記がリナロールに期待される効果です。
- 抑うつ
- 不眠症
- 抗炎症
- ストレス緩和
- 疼痛
- 抗菌
まとめ
今回は大麻に含有するテルペンについてご紹介しました!テルペンは大麻の成分において、カンナビノイドと同じく非常に重要な役割を担っているとされ、近年薬効などに対する研究が進んでいます。植物に香りの違いがあるのはテルペンの組成であり、ラベンダーやベルガモットにリラックス効果があるとされ、アロマテラピーに利用されるのも同じくテルペンによるものです。
医療用大麻がTHCやCBDが単体で分離されて使用されるだけでなく、できるだけ植物の大麻のまま使用し、数多くの疾患・症状に効果がある理由はこのテルペンにも理由があるようですね。
今後、カンナビノイドと同じくテルペンの研究が進み、人への効果効能についてわかればテルペンが大麻やカンナビノイドと同じく、さらに注目されることになるかもしれません。
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